社長、その溺愛は計算外です

第9話 その日、それぞれの覚悟


【圭佑 side】

木曜日の朝。

俺は、大手町の桐原グループ本社ビルに向かっていた。

昨夜、梓のオフィスの前で車を走らせながら、決めた。

今日、父親と話をつけると。

エレベーターで最上階に上がる。父の執務室の前で、俺は息を整えた。

ノックをして、中に入る。

「圭佑か」

デスクに座る父親が、冷たい視線で俺を見た。

「麗華さんとの婚約を、破談にさせてください」

父親の手が、一瞬止まった。

「……何を言っている」

「俺には、愛する女性がいます。新谷梓──彼女と、結婚したい」

「圭佑」

父親が椅子から立ち上がった。

「お前は、桐原グループの次期会長だ。五万人の従業員の生活を背負っている。それを、一時の感情で放り出すつもりか」

「一時の感情じゃない」

俺は、父親を見据えた。

「彼女は、俺に正面からぶつかってくる。顔色を読まず、立場を気にせず、自分の言葉で話してくる。誰にも弱みを見せず、それでも諦めない」

「だからなんだ」

「感情の話をしているんじゃない」

俺は、一呼吸置いた。

「どんな局面でも、誤魔化しより誠実さを選べる人間です。都合の悪い事実でも、正面から向き合って打開策を出す。あなたが最も重視する『判断力』を、彼女は持っている。桐原の次期会長の隣に立つ人間として、それ以上の条件はない」

父親の表情が、わずかに変わった。怒りの中に、何か別のものが混じった。

「では」

父親が、俺にある書類を突きつけた。
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