社長、その溺愛は計算外です

言葉は淀みなく、立ち姿は完璧だ。それでも、言葉を探して黙った一瞬だけは、どうしても隠しきれていなかった。

あれは、計算じゃない。

「合理的な理由はない」と言いながら三週間前の会議室だけで「十分だ」と言い切り、真正面から反論されて「もっと聞きたい」と答えた。

その無自覚さが、どれだけ人の心に触れるのか──きっと、本人は分かっていない。

……なんて、偉そうに分析している私だって、心臓がうるさいのに。

そう思ったら、なぜか笑えてきた。



家に帰り着き、ソファに座り込んでも、気持ちは落ち着かなかった。

温もりの残る掌を、もう片方の手でそっと包む。

頬がほんのり赤く染まっているのが、自分でも分かった。

六年前の元カレの声が、ふと蘇る。

『梓といると息が詰まる。もっと素直で、可愛い子がいい』

あの日から、私は「本当の私」を婚活の場に持ち込まなくなった。

感情を計算式に置き換えて、「好かれる自分」をデザインする。

それが正解だと思っていた──今夜までは。
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