社長、その溺愛は計算外です
言葉は淀みなく、立ち姿は完璧だ。それでも、言葉を探して黙った一瞬だけは、どうしても隠しきれていなかった。
あれは、計算じゃない。
「合理的な理由はない」と言いながら三週間前の会議室だけで「十分だ」と言い切り、真正面から反論されて「もっと聞きたい」と答えた。
その無自覚さが、どれだけ人の心に触れるのか──きっと、本人は分かっていない。
……なんて、偉そうに分析している私だって、心臓がうるさいのに。
そう思ったら、なぜか笑えてきた。
◇
家に帰り着き、ソファに座り込んでも、気持ちは落ち着かなかった。
温もりの残る掌を、もう片方の手でそっと包む。
頬がほんのり赤く染まっているのが、自分でも分かった。
六年前の元カレの声が、ふと蘇る。
『梓といると息が詰まる。もっと素直で、可愛い子がいい』
あの日から、私は「本当の私」を婚活の場に持ち込まなくなった。
感情を計算式に置き換えて、「好かれる自分」をデザインする。
それが正解だと思っていた──今夜までは。