社長、その溺愛は計算外です
【梓side】
同じ木曜日。プレゼンテーション当日。
私は陽光フーズの会議室に、修正した提案書を携えて臨んだ。
「本日は、さっそくご提案させていただきます」
私は、最初のスライドを映し出した。
「陽光フーズ様の在庫管理において、最も重要なのは──現場の方々が、明日から迷わず使えるシステムです」
佐竹部長が、少し身を乗り出した。
「段階的な導入をご提案します。フェーズ1では、現在の業務フローを変えずに、入出庫の記録をデジタル化することだけに集中します。現場の負担は、最小限に」
「……ほう」
「現場が慣れた半年後にフェーズ2として在庫の可視化を追加し、一年後のフェーズ3で需要予測の補助機能を導入する。段階を踏むことで、現場は自分たちのペースでシステムを育てていける」
説明を終えると、会議室がしばらく沈黙に包まれた。
「新谷さん」
佐竹部長が口を開いた。
「正直に言うと、他社からの提案は機能が多すぎて、うちの現場では使いこなせないものが多くてね」
「はい」
「でも、今のご提案は……うちのことをよく分かってくれている」
現場責任者の村田さんも頷く。
「段階的に覚えていけるのは助かります。一気にシステムが変わると、現場が混乱するんですよ」
「ありがとうございます」
私は頭を下げた。
「この提案は、これまでの打ち合わせで佐竹部長と村田さんがおっしゃってくださった言葉から作りました。答えは、最初から皆さんが持っていらっしゃいました」
その言葉に、佐竹部長が目を細めた。
「新谷さん、次のフェーズも、ぜひあなたに担当してもらいたい」
会議室を出た後、私はエレベーターホールで一人、肩の力を抜いた。
遠回りしたけど、自分でちゃんと気づけた。