社長、その溺愛は計算外です
父親の顔が、険しくなった。
「ならば、KIRIHARA TECHは終わりだ。今日中に、さらに取引先への圧力を強める。銀行からの融資も止めさせる」
「構いません」
「甘い!」
父親が、立ち上がった。
「俺も本気を出します」
俺は、父親の言葉を遮った。
「桐原グループの次期会長の座を、辞退します。相続権も放棄します」
父親の動きが止まった。
「……何を言っている」
「俺は、自分の力だけで生きていきます。KIRIHARA TECHを、自分自身の手で守り抜く。そして、梓と結婚する」
「お前は、桐原家の長男だ。誰が、五万人の従業員を率いるんだ!」
「弟の朔でもいい。外部から招聘してもいい。俺以外にも、優秀な人材はいるはずです」
「朔はまだ二十五歳だ。経験が足りん」
「それでも、俺は辞退します」
俺は、父親に一歩近づいた。
「梓は、俺に正面からぶつかってくる。顔色を読まず、立場を気にせず、自分の言葉で話してくる。桐原の名前ではなく、俺自身を見てくれる。三十二年生きてきて、そんな人間は他にいなかった。だから、梓でなければならない」
父親の目に、怒りの中に何か別のものが混じった。
「お前がKIRIHARA TECHを立ち上げた時も、同じ顔をしていたな」
低く、重い声だった。
それから、父親はしばらく黙った。
「……お前の母親と結婚した時」
不意に、声のトーンが変わった。