社長、その溺愛は計算外です

【梓 side】

土曜日の朝。

私は、昨夜届いたメッセージを何度も読み返していた。

【全部、片がつきました】

その言葉の重さを、ゆっくりと受け止めていた。

それがどういう意味なのか、全部は分からない。

でも、会いに行こうと思った。

今度こそ、逃げない。

クローゼットを開けて、服を選んだ。

婚活パーティーで着たパステルピンクのワンピースでも、仮面を貼り付けていたあの日の自分でもなく。

淡いブルーグレーのニット。歩きやすいブーツ。

これが、私だ。



十一時前。

代官山の公園は、秋の朝の光に包まれていた。

落ち葉が敷き詰められた小道を歩きながら、私は考えていた。

傷つくことが怖くて、彼の言葉を聞く前に逃げた。

でも──聞かなければ、何も変わらない。

噴水のそばのベンチに、圭佑さんが座っていた。

コートのポケットに手を入れて、水面をぼんやりと見つめている。

一歩踏み出すたびに、この一週間のことが蘇った。

着信を引き出しにしまった夜。春菜の『また婚活サイトに登録し直すの?』という言葉に、指先が冷たくなったあの朝。

麗華さんの「あなたは、彼の隣に立てる人間ですか」という問いに、言葉が出なかった自分。

怖かったのは、立てないかもしれないという不安ではなかった。

本当に怖かったのは──立ちたいと思っている自分に、気づいてしまうことだった。

私が近づく気配に気づいて、彼が顔を上げた。

目が合った瞬間、彼の表情がほんのりと解けた。

「梓さん」

「……来ました」

「来てくれて、ありがとうございます」

彼が立ち上がる。ベンチから噴水のそばまで、数歩。
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