社長、その溺愛は計算外です
【梓 side】
土曜日の朝。
私は、昨夜届いたメッセージを何度も読み返していた。
【全部、片がつきました】
その言葉の重さを、ゆっくりと受け止めていた。
それがどういう意味なのか、全部は分からない。
でも、会いに行こうと思った。
今度こそ、逃げない。
クローゼットを開けて、服を選んだ。
婚活パーティーで着たパステルピンクのワンピースでも、仮面を貼り付けていたあの日の自分でもなく。
淡いブルーグレーのニット。歩きやすいブーツ。
これが、私だ。
◇
十一時前。
代官山の公園は、秋の朝の光に包まれていた。
落ち葉が敷き詰められた小道を歩きながら、私は考えていた。
傷つくことが怖くて、彼の言葉を聞く前に逃げた。
でも──聞かなければ、何も変わらない。
噴水のそばのベンチに、圭佑さんが座っていた。
コートのポケットに手を入れて、水面をぼんやりと見つめている。
一歩踏み出すたびに、この一週間のことが蘇った。
着信を引き出しにしまった夜。春菜の『また婚活サイトに登録し直すの?』という言葉に、指先が冷たくなったあの朝。
麗華さんの「あなたは、彼の隣に立てる人間ですか」という問いに、言葉が出なかった自分。
怖かったのは、立てないかもしれないという不安ではなかった。
本当に怖かったのは──立ちたいと思っている自分に、気づいてしまうことだった。
私が近づく気配に気づいて、彼が顔を上げた。
目が合った瞬間、彼の表情がほんのりと解けた。
「梓さん」
「……来ました」
「来てくれて、ありがとうございます」
彼が立ち上がる。ベンチから噴水のそばまで、数歩。