社長、その溺愛は計算外です
「比較になりませんでした。梓さんを失う方が、圧倒的に怖かった。だから……」
この人は今、データの話をしているわけじゃない。
計算という言葉を使いながら、計算なんてできていない。そのことが、どこかで分かった。
「梓さん」
圭佑さんが、私の名前を呼んだ。
「俺は、ずっと君に正直じゃなかった。本当に申し訳なかった」
「……」
「君を試していたわけじゃない。ただ、桐原グループの御曹司としてではなく、一人の人間として見てもらいたかった。その気持ちだけは、本当です」
「分かっています」
私は、顔を上げた。
「分かっています。だけど……信じて、全部賭けて、それでも最後に傷つくことが──怖かった」
「梓さん……」
「圭佑さんといると、本当の自分でいられた。それが嬉しかったから、余計に」
声が、途中で細くなった。
「失いたくなかったんです。だから、逃げました」
圭佑さんが、私を見ていた。
「俺も同じです」
少しかすれた声だった。
「君の前では、格好がつかない。パクチーに固まって、オムライスにハートを描いて、会社のロビーで手を握って」
噴水から視線を外して、私のほうを向く。
「そういう自分を、君に見られるたびに──もう手放せないと思っていた」
「圭佑さん……」
「好きです、梓さん」