社長、その溺愛は計算外です
真っ直ぐな声だった。迷いも嘘も、何もない。
「君の、真面目すぎるところも。一生懸命なところも。不器用なところも。全部が好きだ」
彼が続けた。
「パクチーを笑って奪ってくれた君を見て、もう駄目だと思った。気づいたら、完全に好きになっていた」
あの夜のことを、圭佑さんはずっと覚えていてくれたんだ。
レストランで固まった彼を見て、笑いながらパクチーを奪った。そんな些細な瞬間を、大切にしてくれていたなんて。
目頭が熱くなった。
「梓さん。俺と、付き合ってください」
「……はい」
声が震えた。
「私も……圭佑さんのことが、好きです」
私は、彼の目を見て答えた。
「それに──」
言葉が、口をついて出た。
「圭佑さんが全部捨てようとしてくれたのに、私だけ逃げていたら、それこそ計算が合わない」
圭佑さんが、目を瞬かせた。
「……今、計算と言いましたか?」
「言いました」
「君が計算という言葉を使うのは、珍しいですね」
「あなたの影響です」
間があって、圭佑さんが笑った。本当に嬉しそうな、子どものような顔で。
「……梓さん」
「はい」
「これからは……梓、と呼んでもいいですか?」
「……はい」
「梓」
低く、確かめるように呼ばれた。
それだけで、胸がいっぱいになった。
噴水の水音が、変わらず続いている。彼の腕の中で、私はしばらく動けなかった。
やがて圭佑さんが、そっと離れた。
「正直、これから、どうなるか分からない」
圭佑さんが正直に言う。
「会社が厳しくなるかもしれない。楽な道じゃないかもしれない」