社長、その溺愛は計算外です
「構いません」
私は、彼を見た。
「圭佑さんと一緒なら、どんな未来でも」
「……君は、本当に」
「本当に、何ですか」
「強い」
「強くないですよ」
「強い。俺が一番よく知っています」
圭佑さんが、私の手を取った。
「これから、一緒に歩いていきましょう」
「はい。一緒に」
繋いだ手の温もりが、指先から伝わってくる。
婚活パーティーで「理想の女性」を演じていたあの夜から、ここまで来るのに、どれほどかかったんだろう。
仮面を被って、計算して、それでも全部うまくいかなくて。
この人に出会って、ぶつかって、傷ついて、逃げて。
それでも、今ここにいる。ありのままの私として。
これが、私の「計算外」だった。
婚活マニュアルにも、戦略にも、どこにも書いていなかったこと。
仮面を脱いだ自分のまま、誰かの隣に立てる日が来るなんて。
あの頃の私に、教えてあげたい。
仮面なんていらなかったよ、と。
「そうだ」
圭佑さんが、思い出したように言った。
「まず、ゴールドに報告しなきゃな」
「ゴールドに?」
「あいつ、ずっと待ってるから」
あの子に初めて会った日のことを思い出した。
人見知りだと言っていたのに、ゴールドはすぐに私の膝に頭を乗せてきた。あの重さが、たまらなく愛おしかった。
「行きましょうか」
私たちは、手を繋いで歩き出した。
落ち葉が、二人の足元に積もっている。
秋の風が、優しく髪を揺らした。
◇
電車に揺られながら、私は圭佑さんの隣に座っていた。
窓の外に、昼の街が流れていく。
手を繋いだまま、圭佑さんが口を開いた。
「父が、君に会いたいと言っていました」