社長、その溺愛は計算外です

「構いません」

私は、彼を見た。

「圭佑さんと一緒なら、どんな未来でも」

「……君は、本当に」

「本当に、何ですか」

「強い」

「強くないですよ」

「強い。俺が一番よく知っています」

圭佑さんが、私の手を取った。

「これから、一緒に歩いていきましょう」

「はい。一緒に」

繋いだ手の温もりが、指先から伝わってくる。

婚活パーティーで「理想の女性」を演じていたあの夜から、ここまで来るのに、どれほどかかったんだろう。

仮面を被って、計算して、それでも全部うまくいかなくて。

この人に出会って、ぶつかって、傷ついて、逃げて。

それでも、今ここにいる。ありのままの私として。

これが、私の「計算外」だった。

婚活マニュアルにも、戦略にも、どこにも書いていなかったこと。

仮面を脱いだ自分のまま、誰かの隣に立てる日が来るなんて。

あの頃の私に、教えてあげたい。

仮面なんていらなかったよ、と。

「そうだ」

圭佑さんが、思い出したように言った。

「まず、ゴールドに報告しなきゃな」

「ゴールドに?」

「あいつ、ずっと待ってるから」

あの子に初めて会った日のことを思い出した。

人見知りだと言っていたのに、ゴールドはすぐに私の膝に頭を乗せてきた。あの重さが、たまらなく愛おしかった。

「行きましょうか」

私たちは、手を繋いで歩き出した。

落ち葉が、二人の足元に積もっている。

秋の風が、優しく髪を揺らした。



電車に揺られながら、私は圭佑さんの隣に座っていた。

窓の外に、昼の街が流れていく。

手を繋いだまま、圭佑さんが口を開いた。

「父が、君に会いたいと言っていました」
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