社長、その溺愛は計算外です
「お疲れ」
圭佑さんが、自然に私の手を取ってくれる。
「会社、大丈夫でしたか?」
「ああ。今日も新規クライアントと商談がまとまった。社員たちも、以前より活気が戻ってきた」
「良かった……」
ほっと息をつく。
恋人になってから、圭佑さんの敬語は少しずつ影を潜め、代わりに飾らない言葉が増えていった。
仕事中の完璧な社長とは違う、不器用で、時には少し独占欲の強い「素」の顔。
最初は、戸惑うこともあったけれど──今は、私だけが知っているその変化が、たまらなく愛おしかった。
「梓」
「はい?」
「今日、中島主任と長く話してたな」
突然の言葉に、私は目を丸くした。
「えっ、見てたんですか?」
「たまたま、ロビーから見えた」
圭佑さんが、視線を少し逸らしながら言う。
「……仕事の話か?」
「もちろんそうですよ。来月のプレゼンの件で」
「そうか」
「……なんですか、その顔」
「別に」
「全然、別にじゃない顔してますよ」
圭佑さんが、眉間にわずかに皺を寄せたまま、前を向いた。
「……中島主任、最近よく君に話しかけてくるな、と思っただけだ」
圭佑さんが、繋いだ手に少しだけ力を込める。
「もしかして……嫉妬してますか?」