社長、その溺愛は計算外です
ほんの一瞬。会議室の誰にも気づかれないような、短い時間。
けれどその目には、いつものビジネスライクな冷静さとは違う、何か別のものが宿っていた。
しかし、次の瞬間には、もういつもの無表情に戻っている。
──今のは、何だったんだろう。
動揺を押し込めて、私は資料に目を落とした。
「それでは、新システム導入についてご提案させていただきます」
桐原さんの部下が、プロジェクターに資料を映し出す。
「こちらのシステムですが、現在のECサイトとの連携部分で気になる点があります。決済システムとの連携において、二重認証の部分で十分な対策が取られているか確認させていただきたく」
私の問いかけに、桐原さんの表情がわずかに変わった。
「そこまで詳細に確認されるとは。新谷さんらしい」
彼の落ち着いた声が、会議室に響く。仕事の評価なのに、どうしてこんなにも鼓動が速くなるのだろう。
「ありがとうございます。クライアント様の信頼を守ることが、私たちの使命ですので」
会議が進む中、私は同僚の中島主任と技術的な詳細について話し始めた。
三十代半ばの彼は、穏やかな笑顔が印象的な同僚だ。
「新谷さん、そのアイデアいいですね」
「ありがとうございます。中島さんのおかげで……」
思わず笑顔で返した、その瞬間。
「こほん」
鋭い咳払いが、会議室に響いた。