社長、その溺愛は計算外です
「怖いということは、ちゃんと向き合っている証拠だから。梓さんは、今日ここに来てくれた。それだけで、十分よ」
「……はい」
「困った時は、いつでも相談してくださいね。あなたはもう、私たちの家族なんだから」
「家族」という言葉が、思いがけず深いところに届いた。
「……ありがとうございます」
目頭が熱くなるのを、懸命にこらえた。
「これからも、ありのままの梓さんでいてくださいね。息子が惚れたのは、飾らないあなただから」
圭佑さんが「母さん……」と苦笑した。
その横顔を見て、私は初めて──本当の意味で、この場所に居ていいのだと思えた。
◇
和子さんが「少し失礼しますね」と席を立ったのは、デザートが運ばれてきた頃だった。
圭佑さんも、別のテーブルの方から声をかけられて、少し離れた。
応接間には、私と隆一さんだけが残された。
彼と二人きりになった瞬間、部屋の空気が一変したように感じた。
沈黙が流れる。
喉が不自然に渇き、カップを持つ指先がわずかに震える。
向かいに座る隆一さんは、ただ静かに庭の方を眺めている。
──何か、話さなければ。
しかし、焦るほどに言葉は出てこず、沈黙の重みに押しつぶされそうになった。
「梓さん」
「はい」
鼓動が小さく跳ねる。
「君は、今の仕事を続けるつもりなのか」
私は一度、唾を飲み込んだ。そして、隆一さんの瞳を見つめ返す。
「……はい。続けたいと思っています」
「そうか」
隆一さんが、カップに手を添えた。
「圭佑は、KIRIHARA TECHを手放さないだろう。あの子が立ち上げたものだから。君も、自分の仕事を手放さなくていい」
「……ありがとうございます」
「ただ……」
隆一さんが、私を真っ直ぐ見た。