社長、その溺愛は計算外です

「怖いということは、ちゃんと向き合っている証拠だから。梓さんは、今日ここに来てくれた。それだけで、十分よ」

「……はい」

「困った時は、いつでも相談してくださいね。あなたはもう、私たちの家族なんだから」

「家族」という言葉が、思いがけず深いところに届いた。

「……ありがとうございます」

目頭が熱くなるのを、懸命にこらえた。

「これからも、ありのままの梓さんでいてくださいね。息子が惚れたのは、飾らないあなただから」

圭佑さんが「母さん……」と苦笑した。

その横顔を見て、私は初めて──本当の意味で、この場所に居ていいのだと思えた。



和子さんが「少し失礼しますね」と席を立ったのは、デザートが運ばれてきた頃だった。

圭佑さんも、別のテーブルの方から声をかけられて、少し離れた。

応接間には、私と隆一さんだけが残された。

彼と二人きりになった瞬間、部屋の空気が一変したように感じた。

沈黙が流れる。

喉が不自然に渇き、カップを持つ指先がわずかに震える。

向かいに座る隆一さんは、ただ静かに庭の方を眺めている。

──何か、話さなければ。

しかし、焦るほどに言葉は出てこず、沈黙の重みに押しつぶされそうになった。

「梓さん」

「はい」

鼓動が小さく跳ねる。

「君は、今の仕事を続けるつもりなのか」

私は一度、唾を飲み込んだ。そして、隆一さんの瞳を見つめ返す。

「……はい。続けたいと思っています」

「そうか」

隆一さんが、カップに手を添えた。

「圭佑は、KIRIHARA TECHを手放さないだろう。あの子が立ち上げたものだから。君も、自分の仕事を手放さなくていい」

「……ありがとうございます」

「ただ……」

隆一さんが、私を真っ直ぐ見た。
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