社長、その溺愛は計算外です

「まあ、丁寧な方ね」

母が小声で私に言った。

「お母さん、聞こえてるよ」

「聞こえてもいいわよ。本当のことだから」

廊下を進むと、リビングのドアが開いていた。

父が、テレビを見ながら座っていた。

六十代前半。がっしりとした体格で、寡黙な人だ。定年まで工場で働き続けた、不器用で真面目な人。

私が仕事に一生懸命になるのは、父に似たのだと、いつからか思っている。

「お父さん、ただいま」

「ああ」

父が、圭佑さんを見た。

鋭い目だった。

彼の本質を見極めようとするような、確かめるような目。

「桐原圭佑と申します。梓さんと、将来を見据えてお付き合いさせていただいています。お父様に直接お会いしてお話したく、本日は伺いました」

圭佑さんが、父の目を見て、はっきりと言った。

父は、しばらく黙っていた。

「座ってくれ」

それだけ言って、お茶を一口飲んだ。

母が「もう、お父さんったら」と苦笑いしながら、圭佑さんに座布団を勧めた。



しばらく、当たり障りのない話が続いた。

母は圭佑さんに次々と話しかけ、圭佑さんは丁寧に答え続けた。

「圭佑さん、趣味は何ですか」

「ロードバイクです」

その時、父が初めて自分から口を開いた。
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