社長、その溺愛は計算外です
「君、ロードバイクに乗るのか」
「はい。週末に走ることが多いです」
「どのくらい走る」
「一回につき、百キロ前後でしょうか」
父が、目を細めた。圭佑さんの、仕立ての良いスーツ越しでも分かる体格を確かめるように。
「……百キロか。根性あるな」
褒め言葉だ。父なりの。
「梓さんに笑われますが、これだけは譲れなくて」
うまい、と思った。圭佑さんは、私の名前を出すことで、父との間に私を置いた。無意識かもしれない。でも、この人らしいやり方だった。
父が「娘に笑われるのは、まあ、慣れろ」と言った。
「……そうします」
その短いやりとりで、場の空気が和らいだ。
私は黙って、二人を見ていた。
「梓」
不意に、父が私の名前を呼んだ。
「はい?」
父が、私ではなく圭佑さんを見たまま言った。
「……本当に、この人でいいのか?」