社長、その溺愛は計算外です
六月、式当日のお昼過ぎ。
控室で、私はウェディングドレスに身を包んでいた。
「梓、本当に綺麗……」
春菜が、ハンカチで目元を押さえながら目を細めていた。
「ありがとう。春菜がいてくれたから、私、ここまで来られたよ」
「何言ってるの。全部、梓が自分の足で勝ち取った幸せよ」
その言葉に、私は視界が滲んだ。
春菜が席を外した、ほんの短い間。
鏡の中の自分を、私はじっと見つめた。
白いドレス。整えられた髪。見慣れないくらい、晴れやかな顔。
なのに、ふと思った。
──本当に、私でいいのかな。
桐原グループの次期会長になるかもしれない人の隣に、ずっと立っていられるか。
あの豪華な桐原家の応接間で感じた、あの怖さ。
いつかまた、誰かに「あなたには無理でしょう」と言われる日が来るかもしれない。
気づかないうちに、また誰かの期待に応えようとしてしまうんじゃないか。
「梓?」
春菜が戻ってきた。私の表情に気づいて、首を傾げる。
「……少し、怖くなったの」
「怖い?」
「また、演じてしまわないかなって」