社長、その溺愛は計算外です

春菜が、しばらく黙った。それから、私の隣に座った。

「梓」

「うん」

「圭佑さんはね、婚活パーティーで仮面を被ってた梓じゃなくて、会議室で正面からぶつかってきた梓を好きになったんでしょう」

「……うん」

「それって、もう答えが出てるじゃない」

目頭が熱くなった。

「演じたくなったら、その時に言えばいい。あの人なら、きっと受け止めてくれるから」

「……そうだね」

「そうだよ」

春菜が、私の手をぎゅっと握った。

「大丈夫。梓は、梓のままで行けばいい」

その言葉で、胸の奥に溜まっていたものが、静かにほどけた。

コンコン。

ドアがノックされて、父が入ってきた。

私の姿を見た瞬間、言葉を失ったように目を細めた。

「……本当に、綺麗だな」

「お父さん……」

「お前が小さい頃は、こんな日が来るなんて想像もしていなかった」

震える父の手が、私の肩にそっと置かれた。

「いつも一人で頑張って、弱音も吐かずに。心配したこともあったが……今の幸せそうな顔を見れば、もう何も言うことはない」

父が目を細めるのを見て、私は慌てて視線を上げた。

ここで泣いたら、もう止まらない。
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