社長、その溺愛は計算外です
麗華さんだ。
私を見て優しく微笑む彼女の目が、少し光っているように見えた。
来てくれた。ここに、自分の意思で。
バージンロードの先で待つ圭佑さんもまた、麗華さんに気づいていた。
彼は私と目を合わせて、ほんのわずかに頷いた。
二人の間に、静かな了解が流れた。
その事実が、胸の奥をじわりと満たした。
圭佑さんはタキシードを完璧に着こなし、私だけを見ている。
あれほどの人数が集まった会場で、彼の視野に入っているのは私だけなのだと、離れていても伝わった。
一歩、踏み出す。
足が震えそうだった。それでも、奥に立つ圭佑さんの目を見ると、自然と次の足が出た。
一歩、また一歩と進むたびに、これまでの日々が脳裏を掠める。
婚活パーティーでの出会い。会議室でぶつかり合った日々。徹夜作業を見守ってくれた夜。
書店での偶然の再会。初めてのデート。
雨の日、濡れながら私を庇ってくれた腕。オムライスのハート。
全てが、この瞬間のためにあったのだと、今なら分かる。
「梓」
父が、小さく呟いた。
「幸せになれよ」
「はい」
声が、少し掠れた。
「圭佑くん。梓を頼むよ」
「はい、お義父さん」
父から圭佑さんへ、私の手が渡される。その瞬間、震えが止まった。
父の温もりから、圭佑さんの温もりへ。
「梓……世界で一番美しい」
彼が、私だけに聞こえる声で囁く。
「一生、今日の姿を忘れない」
頬が火照るのが分かった。泣きそうなのに、笑ってしまいそうにもなった。