社長、その溺愛は計算外です

「桐原さん……」

「一人で抱え込まないでください」

彼がさらに一歩近づく。周囲に人がいないことを確認してから、声を落として続けた。

「何かお手伝いできることがあれば、遠慮なくおっしゃってください」

「ありがとうございます」

踵を返して歩き出そうとした時、彼の声が背中に届いた。

「新谷さん」

「はい?」

「頑張りすぎないでくださいね」

振り返ると、彼は温かな目でこちらを見つめていた。会議室では決して向けられたことのない、種類の違う目だった。

「……はい。ありがとうございます」

私は小さく微笑んで、急いで会社に戻った。



その夜、私はオフィスに籠もって修正作業に取り組んでいた。

窓の外は既に真っ暗で、ビル群の明かりだけが夜の闇を照らしている。

プログラマーの西田くん、サブリーダーの吉川さん。疲れた表情を浮かべながらも、必死にパソコンに向かってくれていた。

「西田くん。こちらのコード、もう一度確認してもらえますか」

「はい!」

私は立ち上がって、メンバーのデスクを回りながら進捗を確認していく。

普段はきちんと整えている髪も、何度も掻き上げているうちに乱れてきた。スーツの上着は既に脱ぎ、ブラウスの袖をまくり上げている。

これが、本当の私の仕事ぶりだ。洗練された外見の下に隠された、泥臭く必死な姿。

「新谷さん、原因が分かりました」

吉川さんが声を上げる。
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