社長、その溺愛は計算外です
「桐原さん……」
「一人で抱え込まないでください」
彼がさらに一歩近づく。周囲に人がいないことを確認してから、声を落として続けた。
「何かお手伝いできることがあれば、遠慮なくおっしゃってください」
「ありがとうございます」
踵を返して歩き出そうとした時、彼の声が背中に届いた。
「新谷さん」
「はい?」
「頑張りすぎないでくださいね」
振り返ると、彼は温かな目でこちらを見つめていた。会議室では決して向けられたことのない、種類の違う目だった。
「……はい。ありがとうございます」
私は小さく微笑んで、急いで会社に戻った。
◇
その夜、私はオフィスに籠もって修正作業に取り組んでいた。
窓の外は既に真っ暗で、ビル群の明かりだけが夜の闇を照らしている。
プログラマーの西田くん、サブリーダーの吉川さん。疲れた表情を浮かべながらも、必死にパソコンに向かってくれていた。
「西田くん。こちらのコード、もう一度確認してもらえますか」
「はい!」
私は立ち上がって、メンバーのデスクを回りながら進捗を確認していく。
普段はきちんと整えている髪も、何度も掻き上げているうちに乱れてきた。スーツの上着は既に脱ぎ、ブラウスの袖をまくり上げている。
これが、本当の私の仕事ぶりだ。洗練された外見の下に隠された、泥臭く必死な姿。
「新谷さん、原因が分かりました」
吉川さんが声を上げる。