社長、その溺愛は計算外です
「どうやら、認証システムと決済システムをつなぐ部分のタイムアウト設定が、本番環境とテスト環境で異なっていたようです。それで、本番では処理が途中で止まってしまって……」
要するに、二つのシステムが『待ち時間の感覚』を共有できていなかったのか。
「分かりました。修正案を出します」
私は、ホワイトボードに問題点を書き出した。
これまでの経験と技術的な知識、そしてチームメンバーの強みを総動員して、最善の方法を見つけ出さなければ。
いつしか、時計の針が夜十時を回っていた。
「みんなは、先に帰ってください。あとは私一人でやります」
「でも、新谷さん……」
「大丈夫。明日も仕事があるでしょう。私は責任者として、最後まで見届けます」
一人、また一人と帰っていき、オフィスには私一人だけが残された。
静まり返ったフロア。パソコンのファンの音だけが、静寂を破っている。
本来なら一人で片付けたい。それがPMとしての矜持だ。
でも今夜は、桐原さんの「一人で抱え込まないでください」という言葉が、頭から離れなかった。
一人でいることへの意地と、誰かにそばにいてほしいという気持ちが、じりじりと綱引きをしていた。
私は何杯目かのコーヒーを淹れ、デスクに戻り、再びコードと向き合った。
一行一行、丁寧にチェックしていく。エラーの原因を特定し、修正案を考え、テストを繰り返す。
気づけば、時計の針は深夜零時を回っていた。
「まだ、ここが……」
画面に映し出されたエラーメッセージを見つめながら、私は息を吐いた。
修正は進んでいるけれど、まだ完璧ではない。焦りが、じわじわと胸を締め付けてくる。
肩が凝り固まっていて、首を回すと鈍い痛みが走る。
その時、私のスマホが鳴った。
こんな時間に、誰から……?
画面に表示された名前を見て、思わず手が止まる。
【桐原圭佑】