社長、その溺愛は計算外です
数分後、私のパソコン画面に桐原さんの顔が映し出された。
黒のタートルネック。少し乱れた髪。仕事の場では決して見せない、素の表情。背後には本棚が並んでいる。書斎だろうか。
──いつものスーツ姿しか知らなかったのに。
思わず目を逸らしたくなるような、親しみやすさがある。それがかえって、落ち着かなかった。
本棚には、技術書だけじゃなく、背表紙の色が褪せた小説も混ざっていた。
仕事に役立つわけでも、誰かに知識を披露するためでもない。ただ好きで、手元に置いておきたい。
彼の中にも、そんな柔らかな場所があるのだろうか。
そういう、小さなことが気になった。
──あれ、ちょっと待って。今の私、どんな顔してる!?
ふと画面の端に映った自分の姿に、血の気が引いた。
結び直す暇もなく崩れた髪に、眼鏡。袖をまくったままのブラウス。しかも寝不足のせいで、顔色までひどい。
最悪だ……。
婚活パーティーで必死に作っていた『ふんわり癒やし系』の面影なんて、どこにもない。
慌てて髪を整えようとした時、彼が口を開いた。
『では、画面共有をお願いできますか』
「はい」
ぎこちなくマウスを操作しようとした瞬間、モニター越しに彼の視線がふっと和らいだ。
『……失礼』
「え?」