社長、その溺愛は計算外です

言いかけて、彼は少し黙った。

『……いや。話が早いですね、君は』

その間が、何かを飲み込んだように見えた。

「桐原さんのおかげです。一人では、もう少し時間がかかっていました」

『いえ。あとは、この数値を調整すれば……』

作業を進めながら、私は時々、画面の端に映る彼の表情を確認した。

コードを確認する時の、眉間に微かな皺が寄る顔。何かに気づいた瞬間の、目が細くなる顔。画面越しでも、この人の集中の密度が伝わってくる。

会議室では怖いと思っていた。

今は──ただ、この人と同じ問題に向かっていることが、不思議と心強かった。



それから、彼は通話しながら私の作業を見守ってくれた。

作業に没頭していると、ふと無意識に髪を触っている自分に気づく。集中している時の癖だ。

モニターの中で、桐原さんの視線が私に注がれているのを感じた。

「桐原さん?」

『……失礼。少し、考えごとをしていました。続けてください』

彼が慌てたように、手元に目を落とす。

もしかして、今の……私のことを見ていた?

頬に熱が集まるのを感じながら、私は再びコードに向き合った。

しばらく沈黙が続いた後、彼が言った。

『新谷さん、コーヒーは何杯目ですか?』

「……五杯目、かな」

『五杯?! 一日の推奨カフェイン摂取量を、大幅に超えています』

「そ、そんな即座に計算しないでください」

『事実です。今すぐ水を飲んでください』

「……はい」

私は、給湯室に行って水を飲んだ。

戻ってくると、モニターの向こうで彼が画面をじっと見ていた。
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