社長、その溺愛は計算外です
『君の眼鏡姿、初めて見ました。新鮮ですね』
「……すみません。コンタクトが限界で」
『いえ』
桐原さんは静かに首を横に振った。
『その方が、いつもの新谷さんらしい気がします』
息の仕方を一瞬忘れた。
我に返った私は、画面共有を開始した。
『……なるほど。これはタイムアウトですね』
彼はすぐに画面へ視線を戻し、仕事の声に切り替えた。そして、即座に分析する。
私は火照る頬を誤魔化すように、慌てて資料を開いた。
「はい。設定値を変更してみたのですが、まだ完全には……」
『ちょっと待ってください。この部分、認証トークンの更新タイミングとも連動していませんか? 二つのシステムが、鍵の受け渡しをするタイミング自体がずれているかもしれない』
「あ!」
彼の指摘で、気づいた。タイムアウトだけの問題ではなく、もう一段深いところに原因があった。
手元の資料を素早く確認しながら、頭の中で構造を組み直す。
「……待ってください。だとすると、ログイン直後のセッション──つまり、二人が会話を始める瞬間のことですが──そこの開始タイミングも怪しくないですか」
私は続ける。
「そこで既にズレが生じていたとしたら、決済に至る前の段階で、認証が無効化されている可能性があります」
『……そこまで辿り着きましたか』
画面の向こうで、桐原さんが目を細めた。
『正解です。ログインからカートまでの間で、セッションが静かに死んでいた。だから、決済画面で突然弾かれる』
「なら、修正すべきは二箇所ですね。タイムアウト値と、セッション維持の処理を同期させる部分」
『その通りです。新谷さん、君は本当に──』