社長、その溺愛は計算外です

『ちゃんと飲みましたか?』

「飲みました」

『水分補給は、集中力の維持に有効です。作業効率が上がると思います』

「……桐原さん、それは心配しているんですか、それとも分析しているんですか」

一瞬の間。

『……両方です』

真顔で返ってきた答えに、口元がゆるんだ。

この人は本当に、自分が今どんな顔をしているか、分かっていないのだろう。



深夜一時を過ぎた頃、ようやく大きな進展があった。

「できました! エラーが消えました」

『確認させてください』

私は共有画面のまま、テストを実行する。決済画面への遷移、情報の入力、最終確認──全てがスムーズに進んだ。

「成功です!」

『……良かった』

短い、でも確かな安堵の声だった。

肩の力がすとんと抜けた。

まだ油断はできない。全体的な動作確認と、複数パターンでのテストが必要だ。

作業を続けながら、私たちは時々、他愛もない言葉を交わした。

『……新谷さん』

「はい?」

『今度、一緒に食事に行きませんか。仕事とは関係なく』

声が、耳から離れなかった。

「……はい。ぜひ」

『良かった』

彼の安堵した声が聞こえた。

『君と、もっとゆっくり話がしたいんです』

「私も……です」

通話越しに、二人で微笑み合った。

深夜二時を過ぎた頃、桐原さんが言った。

『新谷さん、少し休憩しませんか』

「いえ、まだ……」

『新谷さん』

静かに、けれど有無を言わせない響きがあった。

『十五分だけでいいから、休んでください』
< 23 / 70 >

この作品をシェア

pagetop