社長、その溺愛は計算外です
そういえば、夕方からずっと座りっぱなしだ。肩も首も凝り固まっている。
「……はい」
私は椅子の背もたれに深く身を預けた。目を閉じると、一日の疲れがどっと押し寄せてくる。
『新谷さん』
「はい……?」
『昼間の会議で、少し気になったことがあって』
「……何ですか?」
『中島さんと話している時の君、いつもと声のトーンが違いませんでしたか。仕事の話と、そうでない話で』
「……あれは、ただの同僚との会話ですけど」
『そうですか』
短い沈黙。
『……データとして、気になっただけです』
「桐原さん、それ……」
私は思わず、笑いをこらえた。
この人は気づいていない。自分が今、教科書通りの嫉妬をしていることに。完全に、まったく、これっぽっちも。
「……なんでもないです。続けてください」
『?』
モニターの向こうで、彼が首を傾ける。
──この間の婚活パーティーの時といい、どうしてこの人が、私に目を留めたのかはまだ分からない。
けれど、その無自覚な横顔が、今はどうしようもなく愛しかった。
しばらくの沈黙。画面越しに視線が重なったまま、彼はふっと目を細めた。
『……君の仕事ぶり、ずっと見ていたいと思ってしまいます』
不意に、声のトーンが変わった。
イヤホン越しに響く低い声が、直接心臓を撫でられたかのように震えた。