社長、その溺愛は計算外です
『でも、無理はしないでください』
その言葉が、予想外の場所に刺さった。
仕事を頑張ることでしか、誰かに認めてもらえないと思ってきた。そんな私に、「無理はしないで」と言ってくれる人がいるなんて。
息の仕方を、一瞬忘れた。
「ありがとうございます。桐原さんがいてくださって、心強いです」
モニターの向こうに、確かにそばにいてくれる。そのことが、こんなにも力になるなんて。
明け方、ようやく全ての修正が完了した。
東の空が、少しずつ白み始めていた。
「桐原さん、完成しました!」
『お疲れ様でした。見事な仕事ぶりでしたよ』
桐原さんの声が響く。彼も、一晩中私に付き合ってくれたのだ。
「桐原さんのおかげです。ありがとうございました」
『いえ、僕は見ていただけです。君の能力と、努力の賜物ですよ』
その言葉を聞いた時、目の奥が静かに熱くなった。
仕事に対する姿勢を、理解してくれる人がいる。私の頑張りを、ちゃんと見てくれている人がいる。
それがたまたま、婚活パーティーで出会った相手だったことに、不思議な縁を感じずにはいられなかった。
『では、少し休んでください』
「はい……」
『おやすみなさい、新谷さん』
「おやすみなさい、桐原さん」
モニターの中の彼が、ふわりと微笑むのが見えた。
通信が切れる直前、彼が愛おしそうに目を細めて──。
「……可愛い」と、微かに唇が動いた気がした。