社長、その溺愛は計算外です
【桐原さん
お心遣い、ありがとうございます。
一晩中お付き合いいただいて、感謝の気持ちでいっぱいです。
朝食、ありがたくいただいています。
お食事のお誘いも、とても嬉しいです。
梓】
送信してから、自分が「梓」とだけ署名したことに気づいた。いつもなら「新谷梓」とフルネームで書くのに。
でも、後悔はしなかった。
すぐに返信が来た。
【喜んでいただけて嬉しいです。
今度は一緒に、もっと美味しいものを食べに行きましょう。
圭佑】
彼も、「桐原圭佑」ではなく「圭佑」とだけ書いていた。
私は思わず、目を細めた。
朝日の差し込む窓際で、温かいカフェオレを包むように両手で持ちながら、私はしばらくその短いメッセージを見つめていた。
──データとして、気になっただけです。
あの言葉を思い出すと、口元がほどけた。
自分が嫉妬していることに、あの人はきっと今も気づいていない。なのに、こんなに丁寧に朝食を手配して、「圭佑」と署名してくる。
仕事相手に、こんなふうに朝を迎えさせてもらったのは初めてだった。
──それに、「少し確認したいことがあって」と言い訳をしながら引き返してきた人が、確認したいことなど最初からなかったのだとしたら。
合理主義の彼が、理由を作ってまで戻ってきた。
その事実が、朝の光の中でじわじわと温かく広がっていく。
まだ、信じ切れてはいない。でも、信じてみたいと思い始めていた。