社長、その溺愛は計算外です

「それでは、女性の皆様から順に自己紹介をお願いします」

司会者の声に合わせ、私はマイクを手にする。

「初めまして、新谷梓と申します。IT関係の導入サポートをしております」

嘘ではないけれど、真相を隠した自己紹介。積み上げてきたキャリアを否定するような、微かな後ろめたさが走る。

「趣味はひとり旅で、美味しいものを食べるのが大好きです」

会場から小さな笑いが起こる。場が和んだ──そう確信した、その時。

窓際の特等席に、王のように腰掛けた一人の男性がいた。

会場全体を静止させるような圧。周囲の女性たちが、彼の存在に気づいた瞬間、ざわめきが起こる。

「あれって……」

「『KIRIHARA TECH』の社長じゃない?」

「三年で、売上十倍って聞いた」

その男性と、目が合った。

血の気が引くのが分かった。

……嘘、でしょ……?
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