社長、その溺愛は計算外です
もしかしたら、このまま平行線をたどるのかもしれない、と思った。
仕事への哲学が違いすぎる。スピードと誠実さへの優先順位が、根本から違う。
それは、どちらかが折れればいいという話ではないような気がして。言い合いの途中で、ほんの少しだけ怖くなった。
この人と、本当に分かり合える日が来るのだろうか。
それでも、私は目を逸らせなかった。
桐原さんがグラスをゆっくりとテーブルに置き、長い沈黙の後に口を開いた。
「では、一つ聞かせてください」
「はい」
「誠実さを貫いた結果、案件を失ったことは?」
「……あります」
私は、目を逸らさなかった。
「三年前、スケジュールの遅延を早期に報告したら、クライアントに不信感を持たれて契約を打ち切られました」
「今は? 後悔していますか」
「していません」
はっきりと言い切った。
「あの時の判断は正しかったと、今でも信じています。そのクライアントとの縁は終わりましたが、同じやり方で積み上げた信頼が、今の私の仕事を支えているから」
桐原さんが、しばらく私を見つめた。