社長、その溺愛は計算外です
値踏みするような目ではなかった。もっと深い場所で、私という人間を確かめているような──そんな目だった。
「……参りましたね」
しばらくの沈黙の後、彼は小さく苦笑した。
「……面白い反論です」
少し間を置いてから。
「スピードと誠実さは、対立するものではない。それが分かっていながら、僕は無意識に切り分けていた。あなたの見方は、正しい」
「私こそ、現場の一側面しか見えていなかったかもしれません。経営判断として、スピードが信頼になるケースがあるというのは──確かにそうだと思います」
「対立しているようで、お互いに補い合っている」
彼が言った。
「新谷さんの誠実さと、僕のスピード感。どちらか片方では足りない」
その言葉が、妙に深く響いた。仕事の話をしているのに、どこか別の意味を帯びているような気がして、私は視線をワイングラスに落とした。
二人とも黙っていた。ぶつかった後の静けさが、流れるジャズの旋律と混ざって、不思議と心地よかった。
この人は、私が反論しても怯まなかった。
そのことに、今さらながら気づく。