社長、その溺愛は計算外です
「それから、婚活では本当の自分を隠すようになりました。男性が求める『理想の女性像』を演じようって。でも、それは私じゃない」
私は顔を上げて、彼を見た。
「本当の私は、不器用で、仕事に一生懸命で。ぶつかることを怖がらない。それがダメなのかなって、ずっと思っていました」
言葉を紡ぎ終えた後、じわりと恥ずかしくなった。
まだそれほど親しくない相手に、こんな話をするなんて。言うつもりは、なかったのに。
「新谷さん」
彼が私の名前を呼んだ。
「その男性は、間違っています」
「え……?」
「君の真面目さは、欠点なんかじゃない」
桐原さんが、言い切った。
「さっき、僕に真正面からぶつかってきた時──君はちっとも、息が詰まるような人じゃなかった」
「桐原さん……」
「むしろ」
彼の声が、少し低くなった。
「もっと、ぶつかりたくなった」
目の奥が、かすかに熱くなる。
まさか、そんなふうに言ってくれるなんて。
「ちなみに、その男性の……名前は?」
桐原さんの声が急に低くなり、私は思わず顔を上げた。
テーブルに置かれたグラスを持つ手に、ほんの少し力が入っているのが分かった。
その瞳は、さっき仕事の議論をしていた時よりも、ずっと鋭く、冷ややかに据わっている。
「え?」