社長、その溺愛は計算外です

「それから、婚活では本当の自分を隠すようになりました。男性が求める『理想の女性像』を演じようって。でも、それは私じゃない」

私は顔を上げて、彼を見た。

「本当の私は、不器用で、仕事に一生懸命で。ぶつかることを怖がらない。それがダメなのかなって、ずっと思っていました」

言葉を紡ぎ終えた後、じわりと恥ずかしくなった。

まだそれほど親しくない相手に、こんな話をするなんて。言うつもりは、なかったのに。

「新谷さん」

彼が私の名前を呼んだ。

「その男性は、間違っています」

「え……?」

「君の真面目さは、欠点なんかじゃない」

桐原さんが、言い切った。

「さっき、僕に真正面からぶつかってきた時──君はちっとも、息が詰まるような人じゃなかった」

「桐原さん……」

「むしろ」

彼の声が、少し低くなった。

「もっと、ぶつかりたくなった」

目の奥が、かすかに熱くなる。

まさか、そんなふうに言ってくれるなんて。

「ちなみに、その男性の……名前は?」

桐原さんの声が急に低くなり、私は思わず顔を上げた。

テーブルに置かれたグラスを持つ手に、ほんの少し力が入っているのが分かった。

その瞳は、さっき仕事の議論をしていた時よりも、ずっと鋭く、冷ややかに据わっている。

「え?」
< 39 / 98 >

この作品をシェア

pagetop