社長、その溺愛は計算外です

「……失礼しました。余計な質問でした」

少し間があってから、彼は我に返ったように言った。

「ただ──君を傷つけた男を、どうしようもなく許せないと思ってしまって」

「もう、過去の人です。今は、何の感情もありません」

私の答えを聞いて、桐原さんの表情がようやく和らいだ。

「……そうですか。それなら、良かった」

ほっとしたように息を吐くと、テーブルの下で彼の手がそっと私の手に触れた。躊躇いがちだけど、確かに。

「新谷さん」

「はい」

「もっと……親しくお呼びしてもいいでしょうか? 梓さん、と」

その一言で、胸の奥の空気が、すっと入れ替わるような感覚がした。

「はい……」

私は頷いた。

「私も、圭佑さんとお呼びしても?」

勇気を出して言った言葉に、彼の表情が明るくなる。

「もちろんです」

彼が微笑んだ。その笑顔は、今まで見た中で一番温かかった。



「梓さん」

圭佑さんが、改めて私の名前を呼んだ。その呼び方が、まだ少しくすぐったい。

「今度の休日……土曜日ですが、もしよろしければ、一緒に出かけませんか」

これは……デート、だろうか。

圭佑さんが、少し照れたような表情で続けた。

「君が行きたい場所でもいいですし……できれば、僕のおすすめの場所にもお連れしたい」

「私も……圭佑さんのこと、もっと知りたいです」

素直な気持ちが、自然と口から出た。戦略でも計算でもなく、ただそう思った。

「では、土曜日の午前十一時に、渋谷駅のハチ公前で」

「はい、楽しみにしています」
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