社長、その溺愛は計算外です
午前十時五十分。
JR渋谷駅のハチ公前は、週末とあって多くの人で溢れていた。
「梓さん」
背後から、聞き慣れた声が聞こえた。
振り返った瞬間──私は思わず息を呑んだ。
白いシャツが朝の光に映え、その姿が人混みの中で際立っていた。
ダークグレーのチノパンに、レザーのローファー。腕には、ネイビーのカーディガンを軽く羽織っている。
いつものスーツ姿とは全く違う。だけど、私だけを捉えているその目は、変わらない。
「おはようございます、圭佑さん」
私が彼の名前を呼ぶと、彼の目がわずかに細くなった。
「おはようございます。梓さん、その服似合ってます」
突然の言葉に、頬が火照る。
「今日の梓さんは、いつもと雰囲気が違いますね。より……柔らかい」
「ありがとうございます。圭佑さんも、とてもお似合いです」
「それでは、行きましょうか」
彼が私の隣に並ぶ。二人で歩き始めると、隣にいる人の存在をこんなにも意識してしまうものかと、妙に落ち着かなかった。
「今日は、どちらへ?」
「まずは、映画はいかがですか。その後、案内したい場所があるんです」