社長、その溺愛は計算外です
映画館のロビーには、様々な作品のポスターが並んでいた。
「梓さんは、どのような映画がお好みですか?」
圭佑さんが、上映スケジュールを確認しながら尋ねてくる。
「実は……アクション映画が好きなんです。派手に暴れて、最後はスッキリ解決するような」
「意外ですね」
圭佑さんが少し驚いた顔をした後、ふっと息を漏らした。
「でも、君らしい。梓さんは諦めない人だから。納得しました」
私たちは、最新の洋画アクションを選んだ。売店で飲み物とポップコーンを買ってシアターに入ると、中央よりやや後ろの席に腰を下ろした。
照明が落ち、予告編が始まる。
暗闇の中で、私は隣に座る彼の存在を強く意識していた。腕が触れ合いそうになるほどの距離。聞こえてくる、静かな呼吸の音。
仕事相手だったはずの人が、今は私のすぐ隣にいる。その事実が、なんだかまだ現実として飲み込めなかった。
本編が始まり、スクリーンでは激しい銃撃戦が展開された。
私は画面に集中しようとした。本当に、しようとした。
でも、圭佑さんが腕を組み替えるたびに、袖口がかすかに触れる。それだけで、心臓が跳ねる。
──いい加減にしなさい、私。仕事じゃないのに、こんなことで集中力を乱してどうするの。
自分に言い聞かせながら、スクリーンを見つめる。
主人公が、仲間を庇って絶体絶命のピンチに陥る場面。思わず身を乗り出した、その瞬間だった。
温かい手が、そっと私の手を包んだ。
「……っ」
驚いて横を向くと、暗闇の中で圭佑さんの瞳が優しく光った。
映画の爆発音が遠くなり、スクリーンの光が揺れる。それでも、目が離せなかった。
「こうしていてもいいですか?」
低く、静かな声だった。