社長、その溺愛は計算外です

私は、何も言えなかった。

代わりに、彼の手をそっと握り返した。

「……はい」

自分の声が、かすかに震えていた。

手を繋いだまま、映画は進んでいく。

主人公が奇跡の逆転を果たし、エンドロールが流れ始めた。

けれど私の頭には、ストーリーよりもずっと、この手の温もりの方が残り続けていた。

場内が明るくなる。

圭佑さんが、繋いだ手をほどかずに立ち上がった。

「行きましょうか」

「……はい」

並んで通路を歩きながら、私はそっと指先に意識を集めた。

繋いだままの手は、温もりを増していた。



映画館を出ると、柔らかな午後の陽射しが街を包んでいた。

「映画、どうでしたか?」

「とても良かったです。困難があっても最後まで諦めない。ああいう姿に、いつも勇気をもらえます」

「梓さんらしいですね」

彼が私の手をもう一度、そっと握る。

「それでは、お昼にしましょうか」
< 48 / 104 >

この作品をシェア

pagetop