社長、その溺愛は計算外です
私は、何も言えなかった。
代わりに、彼の手をそっと握り返した。
「……はい」
自分の声が、かすかに震えていた。
手を繋いだまま、映画は進んでいく。
主人公が奇跡の逆転を果たし、エンドロールが流れ始めた。
けれど私の頭には、ストーリーよりもずっと、この手の温もりの方が残り続けていた。
場内が明るくなる。
圭佑さんが、繋いだ手をほどかずに立ち上がった。
「行きましょうか」
「……はい」
並んで通路を歩きながら、私はそっと指先に意識を集めた。
繋いだままの手は、温もりを増していた。
◇
映画館を出ると、柔らかな午後の陽射しが街を包んでいた。
「映画、どうでしたか?」
「とても良かったです。困難があっても最後まで諦めない。ああいう姿に、いつも勇気をもらえます」
「梓さんらしいですね」
彼が私の手をもう一度、そっと握る。
「それでは、お昼にしましょうか」