社長、その溺愛は計算外です

私たちはタクシーで、渋谷から少し離れた代官山へ向かった。

「ここです」

タクシーを降りて、圭佑さんが立ち止まったのは、蔦に覆われた小さなビルの前だった。

控えめな看板に、イタリア語で店名が書かれている。

『Ristorante La Stella Cadente』

「……流れ星、ですか」

思わず呟くと、圭佑さんが振り返った。

「イタリア語、分かるんですか?」

「ちょっとだけ。学生時代に、少し勉強していて」

「なるほど」

彼が、どこか嬉しそうに微笑んだ。

「この店を選んだ理由の一つです。梓さんに、店名の意味を聞いてほしかった」

重厚な木のドアを開けると、そこは別世界だった。間接照明が柔らかく照らし、クラシック音楽が流れている。

テーブルは全部で十卓ほどで、窓際の席からは手入れの行き届いた中庭が見える。

「いらっしゃいませ」

初老のオーナーが現れた瞬間、圭佑さんが流暢なイタリア語で挨拶を交わした。

よどみなく、親しみを込めたイタリア語。ただの顧客ではなく、古くからの知人のような温度があった。

案内されたのは、中庭が一番美しく見える窓際の席だった。

「ここ、僕にとって大切な場所なんです。一人で心を落ち着けたい時に、訪れる場所」

「素晴らしいお店ですね」

高級すぎず、上品で心地よい。二人で静かに話すのに、ぴったりの雰囲気だ。

ソムリエを呼び、ワインと料理を手慣れた様子で選んでいく圭佑さん。

生まれた時からこういう場所に慣れ親しんでいるかのような、迷いのない選び方だった。

「圭佑さんは、このような場所に慣れていらっしゃるんですね」

私が率直に言うと、彼の顔が一瞬、複雑になった。

「実は……」
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