社長、その溺愛は計算外です

何か言いかけて、彼は口を閉じた。

「……いえ。時々、仕事で使うことがあるので」

その説明には、どこか違和感があった。

時々……? そう言うわりには、オーナーとあんなに親しげに。

あのイタリア語といい、ビジネスの場数では説明がつかない。

「実は」の続きを、彼は飲み込んだ。その言葉の重さだけが、テーブルの上にひっそりと残っていた。

「梓さん」

圭佑さんが、真剣な顔で私を見た。

「梓さん以外の女性を、この場所に連れてきたことはありません」

「え……?」

さらりと言われた一言なのに、頭の中が一瞬真っ白になった。

彼とは、仕事上の付き合いだと思っていた。少なくとも、そう言い聞かせていた。けれど、この人は今、そうじゃない言い方をした。

──あの親しさは? オーナーと言葉を交わす時の、あの迷いのなさは?

聞けなかった。今ここで聞いて良いことなのか、分からなかった。

「ここは、僕の本当の居場所だから。だから……梓さんにだけは、見せたかった」

そんなことを言われたら……。

返す言葉を探しているうちに、スパークリングワインが運ばれてきた。

グラスに注がれた細かな泡が、静かに立ち昇っていく。

「今日という日に、乾杯」

「……乾杯」

グラスが触れ合う、小さな音が響いた。
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