社長、その溺愛は計算外です
黄金色の泡を口に含むと、緊張が心地よくほどけていく。
運ばれてきた前菜の生ハムや自家製パスタに舌鼓を打ちながら、私たちはいつしか仕事の話、そしてお互いの価値観について語り合っていた。
「梓さんは、今の仕事に満足していますか?」
「やりがいはあります。時々、もっと自由に生きてみたいって思うことも」
「分かります」
彼がワイングラスを見つめる。一拍置いて、続けた。
「梓さんといると……余分なものが消えていく感覚があります」
「余分なもの、ですか」
「うまく言えないんですが」
彼が少し首を傾ける。
「説明できないのに、確かにある。それが……少し、不思議で」
この人らしい言い方だと思った。感情を数式に当てはめようとして、当てはまらないことに戸惑っている。
テーブル越しに、彼の手が私の手に重なった。
「これからも、お互いに素顔でいられる関係でいたいですね」
私は頷いた。
メインの子羊のローストが運ばれてきた──その時だった。
「……あ」
圭佑さんの手が、ぴたりと止まった。
彼の視線の先には、お皿の隅に添えられたほんの一筋の緑。
「圭佑さん?」
覗き込むと、彼は見たこともないほど絶望したような顔で、その小さな葉を見つめていた。