社長、その溺愛は計算外です
少しして、デザートのパンナコッタが運ばれてきた。
滑らかなクリームの上に、赤いベリーのソースがかかっている。
「ここのパンナコッタは絶品なんです。梓さんに喜んでもらえると思って、選びました」
スプーンを手に取りかけた、その時だった。
店内の扉が、静かに開いた。
私が気づいたのは、圭佑さんの表情が変わったからだった。笑顔が消えたわけではない。けれど──何かが、固まった。
まるで、あってはならないものを目にした時の顔。
彼につられて入口の方を見ると、そこに一人の女性が立っていた。
私は息を呑む。
艶やかな黒髪は肩より少し下の長さで、完璧に整えられている。
切れ長の瞳、高い鼻筋、上品な口元──まるで日本画から抜け出してきたような、古典的な美しさ。
高級ブランドのコートを羽織り、真珠のアクセサリーが上品に光っている。
女性は店内を見回し──圭佑さんを見つけた瞬間、その瞳がかすかに揺れた。
そして、私を見た。
ほんの一瞬だった。その目の奥に何かがよぎったのを、私は確かに見た。
値踏みするような色でも、敵意でもない。もっと静かで、覚悟を決めたような光。それが、かえって怖かった。
私の隣で、圭佑さんが低く短く息を吐いた。
──梓さん以外の女性を、この場所に連れてきたことはありません。
さっきの言葉が、頭の中で静かに繰り返された。
それじゃあ、あの人は?
一緒にこの店に来たことがあるの? それとも、ない?
「圭佑さん、あの方は……」