社長、その溺愛は計算外です
「……知人です」
彼の声が、普段より低くなった。それだけだった。それ以上、何も続かなかった。
知人。その一言の重さが、どこか違う気がした。
分析しようとしたけど、できなかった。この感覚に、名前をつけることができなかった。
女性はウェイターに案内されて、反対側の窓際の席に着いた。
その際、もう一度だけ圭佑さんの方を見たものの、今度は私の方は見なかった。
「失礼しました」
圭佑さんが、私に向き直る。
その表情はすぐに穏やかさを取り戻していたが、先ほどまでの軽やかさとは何かが、確かに違った。
「梓さん、手が止まっていますよ。せっかくのデザートが、ぬるくなってしまう」
彼の声は優しかった。けれど、私を促すその指先が、わずかに震えている。
──気のせいじゃない。
けれど、理由を問う勇気は今の私にはなかった。
私は、スプーンを持ったまま、しばらく動けなかった。
あの人は、誰なんだろう。
圭佑さんがあんな顔をしたのは、今まで一度もなかった。
◇
しばらくして、圭佑さんのスマホが静かに振動した。
テーブルの上に伏せて置いてあった画面が、一度光る。
「失礼します」
彼が画面を確認した瞬間、表情が動いた。
「少し、席を外しても良いですか」
「もちろんです」
圭佑さんが立ち上がり、店の入口近くへ向かった。低く抑えた声で、電話に出ている。