社長、その溺愛は計算外です

「……知人です」

彼の声が、普段より低くなった。それだけだった。それ以上、何も続かなかった。

知人。その一言の重さが、どこか違う気がした。

分析しようとしたけど、できなかった。この感覚に、名前をつけることができなかった。

女性はウェイターに案内されて、反対側の窓際の席に着いた。

その際、もう一度だけ圭佑さんの方を見たものの、今度は私の方は見なかった。

「失礼しました」

圭佑さんが、私に向き直る。

その表情はすぐに穏やかさを取り戻していたが、先ほどまでの軽やかさとは何かが、確かに違った。

「梓さん、手が止まっていますよ。せっかくのデザートが、ぬるくなってしまう」

彼の声は優しかった。けれど、私を促すその指先が、わずかに震えている。

──気のせいじゃない。

けれど、理由を問う勇気は今の私にはなかった。

私は、スプーンを持ったまま、しばらく動けなかった。

あの人は、誰なんだろう。

圭佑さんがあんな顔をしたのは、今まで一度もなかった。



しばらくして、圭佑さんのスマホが静かに振動した。

テーブルの上に伏せて置いてあった画面が、一度光る。

「失礼します」

彼が画面を確認した瞬間、表情が動いた。

「少し、席を外しても良いですか」

「もちろんです」

圭佑さんが立ち上がり、店の入口近くへ向かった。低く抑えた声で、電話に出ている。
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