社長、その溺愛は計算外です
私は、パンナコッタのベリーソースをスプーンで静かにすくいながら、窓の外の中庭を眺めた。
さっきまであんなに話が弾んでいたのに、今は一人だ。静かなBGMと、他のテーブルの小さな笑い声だけが聞こえる。
五分が過ぎた。電話は、まだ終わらない。
私はコーヒーを一口飲んだ。
イタリア語も、オーナーとの親しさも、「実は……」と飲み込んだ言葉も──全部、私には見えていない何かと繋がっている気がした。
この人には、まだ知らない顔がある。
「お待たせしました」
十分ほど経って、圭佑さんが戻ってきた。
「いえ」
ざわつく心を無理やり静め、私はいつもの、仕事の時のように完璧な笑顔で答えた。
「仕事の連絡ですか?」
「ええ。少し込み入った話で」
「休日なのに、大変ですね」
「慣れています」
彼が席に着いた。コーヒーカップを手に取り、一口飲む。落ち着いた手つきで、穏やかさを取り戻している。
それでも、私の中の何かが、さっきとは変わっていた。