社長、その溺愛は計算外です

「梓さん」

「はい」

圭佑さんが、私を見た。

「電話のせいで、せっかくの時間を切ってしまいましたね」

「そんなことないですよ」

「……嘘が下手ですね」

私は、目を見開く。

「あなたの顔には、思ったことが出ます。それが、梓さんらしいと思っていますが」

彼が続けた。

「今日のことは、全部、本当のことです。梓さんと話したかった。この場所に来たかった。それは、嘘じゃない」

「……はい」

「電話のことは、いずれ話せる日が来ると思います。今日は、まだ」

その言葉が、嘘には聞こえなかった。

でも、すぐに「分かりました」とは言えなかった。

さっきの女性のことも、「実は……」と飲み込んだ言葉も、まだ胸の中にある。それを今すぐ手放せるほど、私は器用じゃない。

それでも。

今日彼と過ごした時間は、本物だった。

映画館で繋いだ手の温もりも、パクチーに固まった顔も、「梓さんにだけは見せたかった」という言葉も。全部が見えなくても、それだけは確かだった。

「……分かりました」

信じよう、と思った。今は、それだけで十分だ。

圭佑さんが立ち上がり、私のコートを手に取った。

「では、そろそろ出ましょうか」
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