社長、その溺愛は計算外です
レストランを出ると、さっきまで明るかった空が、いつの間にか灰色の雲に覆われ始めていた。
「梓さん、傘は?」
「……持ってきていないんです」
「そうですか」
彼が目を細める。
「なら、雨が降り始めたら、一緒に入れるサイズの傘を買いに行きましょう」
「え……」
当然のように言い切って、圭佑さんが歩き出す。
私は、少し遅れてその隣に並んだ。
今日だけは、予報より目の前の空を信じようと思ったのに。
空を見上げると、雲の切れ間から、夕暮れの光がひとすじ差し込んでいた。
──次の瞬間、ポツリと一粒、私の手の甲に落ちてきた。
スエードのブーツだったことを、この時初めて後悔した。
傘もなく、雨に弱い靴を履いて、それでも圭佑さんの隣を歩いている。
計画通りじゃなくても、ハプニングを楽しめる──そう言ったのは、自分だった。
生温かい風が街を吹き抜け、鼻をかすめる土の匂いが、逃れられない雨の訪れを告げていた。
雨粒が、少しずつ増えていく。