社長、その溺愛は計算外です
第5話 傘のいらない雨
レストランから歩き出して、わずか数分後のことだった。
逃げ場のない路上で、バケツをひっくり返したような雨が、容赦なくアスファルトを叩き始めた。
「あ……っ」
視界が真っ白になるほどの豪雨。
「少し早めに出れば、持つと思っていたんですが」
圭佑さんが、空を見上げながら言った。珍しく、読みが外れたという顔をしている。
「予報より目の前の空を信じたのは、私だけじゃなかったんですね」
「……そうですね」
彼が少し目を細めた。
乾いた地面がまたたく間に濃い灰色に塗り替えられ、私たちの退路を断つように雨のカーテンが広がる。
さっきのレストランに戻ることも頭をよぎったが、次の予約で満席だと言っていたオーナーの顔を思い出すと、今さら扉を叩くのは躊躇われた。
「梓さん!」
気づいた時には、圭佑さんの強い腕に腰を引き寄せられていた。
彼は羽織っていたカーディガンを素早く脱いで広げると、私の頭上を覆うように天幕を作って私を庇う。
「圭佑さんが濡れちゃいます……!」
「構いません」
彼の声は、揺るぎなかった。
「君が濡れるくらいなら、僕がずぶ濡れになる方がましだ」
雨がさらに強くなっていき、彼の白いシャツがみるみる濡れていく。