社長、その溺愛は計算外です

前髪が額に張り付いても、圭佑さんは私の頭上から腕を動かさなかった。

私は彼のシャツの端を、そっと指で掴んだ。

頭の上で、雨粒がカーディガンを打つ音がする。彼のシャツ越しに、体温が伝わってくる。

さっきのレストランで感じた「この人には知らない何かがある」という不安が、この温もりの前では遠くなっていく。

全部が見えなくても。

今この瞬間、この人は私だけのために濡れている。

「あそこにタクシーが」

空車を見つけた圭佑さんが、素早く手を上げてタクシーを止め、私を先に乗せてくれた。

車内に入ると、雨の音が少し遠くなった。

「梓さん、濡れていませんか?」

「私は大丈夫です。それより、圭佑さんが……」

雨に濡れて肌に張り付いたシャツ越しに、彼の逞しい肩のラインが透けて見える。

直前まで私を抱きしめるように守っていた腕の逞しさを思い出し、私は慌てて視線を外した。
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