社長、その溺愛は計算外です

「君が無事なら、それでいいんです」

「……ありがとうございます」

タクシーが走り出す。窓の外では、雨が強くなり始めていた。

「梓さん」

「はい?」

圭佑さんが、私の手をそっと取った。

「今日、楽しかったですか?」

「はい。とても」

「なら、良かった」

彼が、ほっとしたように息を吐く。

その横顔を見ながら、私はもう一度、静かに思った。

信じよう、と。

この人のことを、まだ全部は知らない。それでも今日一日、この人は確かに私と一緒にいた。

それだけは、本当のことだから。

「圭佑さん」

「ん?」

「濡れてしまいましたから……良かったら、着替えにどこかへ」

言いかけた瞬間、圭佑さんが少し照れたように続けた。

「実は、近くに僕の家があります。……あ、もちろん、下心があるわけではなく! 姉がたまに泊まっていくので、女性用の着替えも用意してあって……」

普段の冷静さはどこへやら、早口で弁明する彼が可笑しくて、私は思わず笑ってしまった。

「分かっています」

圭佑さんが運転手さんに住所を告げ、タクシーは彼の家へと向かった。
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