社長、その溺愛は計算外です
パーティー終了後、私は逃げるように会場を飛び出した。
来週の会議、どんな顔をして彼と向かい合えばいいのだろう。
エレベーターホールに駆け込み、閉まるボタンを連打する。
「──逃げる気ですか」
低い声が、すぐ背後から落ちた。
閉まりかけたドアが、強靭な力で押し戻される。
「……っ!」
息を呑んだ瞬間、桐原圭佑がエレベーターに滑り込んできた。
ネクタイを乱暴に緩め、第一ボタンが外されている。その姿は、仕事の顔を脱ぎ捨てた一人の「オトコ」の顔だった。
ドアが閉まる。
かすかな機械音。彼から漂うウッディな香水が、閉ざされた空気の中に満ちていく。
「……別に、逃げてたわけじゃ」
「そうですか」
一歩、距離を詰められ、背中が壁に触れた。
「ずいぶん、急いでいたようでしたが」
「……お疲れ様です、桐原社長」
「ここでは、その呼び名はやめてください」
静かに言って、ほんの少し首を傾ける。
「僕も今は、ただの桐原圭佑ですから」
「あ、……はい」
間抜けな返事しか出てこない。こんな至近距離で、こんな顔をされると、思考が正常に機能しない。
「一つ聞いてもいいですか」
「え? は、はい……」