社長、その溺愛は計算外です

「隣のテーブルの男性と、ずっと話していましたよね」

「……はい」

「ああいう会話、楽しいんですか」

一瞬、耳を疑った。

「え……?」

何を言われているのか、すぐには理解できなかった。

真顔だった。責めているわけでも、からかっているわけでもない。ただ純粋に、分からないから聞いている──そういう顔。

この人、まさか本気で言ってるの……?

「趣味の話をして、当たり障りのないことを言い合って。それで、相手の何が分かるんですか」

「そ、それは……婚活の場では普通の会話で……」

「普通」

彼は静かに繰り返した。少し首を傾け、本当に解せないという顔で。

「僕には、よく分からない」

一拍の沈黙。彼の視線が、私の手元に落ちる。

「あなたが相手のどこを見ているのか、あの会話では全く読めなかった」

「……では、桐原さんはどうやって人を見るんですか?」

思わず聞き返すと、彼はあっさりと答えた。

「追い詰められたときに、どう動くか。それだけです」

「……それだけ、って」

「三週間前の会議で、君はすぐ分かりました」

まっすぐに私を捉える目。

「だから──もう、十分です」

「……え?」

「僕が知りたいことは、全部あの会議室で分かった」

さらっと言って、視線を逸らす。本人には、今の言葉がどれだけ重いか、欠片も伝わっていない顔で。

……この人、今、すごいことを言った?
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