社長、その溺愛は計算外です
圭佑さんの家は、代官山から程近いマンションの一室だった。
「お邪魔します……」
玄関をくぐる時、一瞬だけ足が止まった。
仕事相手の自宅に上がる。その事実が、今さらのように胸をざわつかせた。
でも、圭佑さんが「どうぞ」と静かに背中を向けて歩き出すと、その背中についていくことしかできなかった。
「どうぞ」
案内されたリビングは、シンプルで洗練された空間だった。余分なものが何もない。
大きな窓から、雨に煙る東京の街が見渡せる。
壁一面に、本棚が並んでいた。
技術書の背表紙に混じって、色褪せた文庫本が何冊か。
──あの夜、画面の端に見えたのと、同じ本棚だ。
深夜の通話で「仕事に役立つわけでも、誰かに披露するためでもない、ただ好きで手元に置いておきたいものがある」のだと思った。
その空間が今、目の前にある。
「温かいものを用意します。待っていてください」
圭佑さんがキッチンに向かいながら、「クローゼットに姉の服があります」と教えてくれた。