社長、その溺愛は計算外です
洗面所で、お姉さんのものだという柔らかなニットに袖を通すと、自分のものではない柔軟剤の香りがふわりと鼻をくすぐる。
借りたニットは私には少し大きく、指先が半分ほど隠れてしまった。
姉、か。
圭佑さんの私生活に触れるたび、あのレストランで感じた「空白」が埋まっていくような、逆に広がっていくような不思議な感覚になる。
この服を貸してくれる彼の表情には、嘘なんてないように見える。
なのに、あの「知人です」と言った時の低い声だけが、柔軟剤の香りに混じって消えてくれない。
今は、考えないようにしよう。
鏡に映る無防備な自分を叱咤するように、私は深く息を吐いた。
◇
着替えを済ませてリビングに戻ると、圭佑さんも着替えていた。
「……姉の服、少し大きかったですか?」
「っ!」
振り返った彼の姿に、私は息が止まりそうになった。
質の良さそうなグレーのTシャツ越しに、鍛えられた肩のラインが浮き出ている。
……あんなに逞しい腕で、さっきまで私を守ってくれていたんだ。
圭佑さんの視線が、私の手元──袖口から少しだけのぞく指先に留まった。
私は咄嗟に、手を引っこめる。