社長、その溺愛は計算外です
しばらくして、テーブルに運ばれてきたのは、オムライスだった。
チキンライスが、ふわふわの卵で包まれている。
「圭佑さん、料理できるんですね」
「一人暮らしが長いので」
彼が、ケチャップを手に取った。
「せっかくなので」
ためらいがちに、しかし丁寧に、ケチャップで卵の上にハートを描いてくれた。
不格好な、少し歪んだハート。
「……あ」
小さな声を漏らした私の前で、圭佑さんが一瞬だけ固まった。
完璧な社長であるはずの彼が、頬を真っ赤にして、視線を泳がせている。
その「不格好さ」が、彼が私に向けてくれている飾らない真心そのものに見えて、胸の奥が熱くなった。
「……すみません。無意識に、気持ちが指先に込もってしまったようです」
「……ふふ」
私は思わず笑ってしまった。
「笑わないでください」
「……可愛かったので」
「可愛い、は余計です」
耳まで赤くなった圭佑さんが、自分のオムライスに向き直った。
私にだけ見せてくれるこの「隙」が、何よりも愛おしくて、胸の奥がぎゅっと切なくなった。
「いただきます」
一口食べると、とろりとした卵とケチャップライスの優しい味が広がった。
「美味しい……」
「良かった。君のために作った甲斐がありました」
圭佑さんが、肩の力を抜くように息を吐いた。
ゴールドが私たちの足元で丸くなり、時々鼻をひくひくさせている。
しばらく、他愛もない話をしながら食べた。
ゴールドを引き取った経緯、週末のロードバイクのコース、圭佑さんが好きな音楽。
会社では絶対に出てこないような話が、自然と続いていく。
気づけば、ずいぶん長い時間が経っていた。
窓の外では、雨がまだ降り続けていた。