社長、その溺愛は計算外です
「梓さん、話してくれてありがとう」
彼の声が、少し掠れていた。
「強くいようとする君が、僕に弱いところを見せてくれた。それが……どれだけ嬉しいか」
テーブルの下で、圭佑さんの手が私の手に触れた。躊躇いがちに、少し止まって、それからゆっくりと包んだ。
「私たち、お互いに支えていたんですね」
「そうですね」
ゴールドが、ふたりを交互に見上げてから、また目を閉じた。
◇
しばらく沈黙が続いた後、私は口を開いた。
「……圭佑さん」
「はい」
「その一年間、ご飯はちゃんと食べていたんですか」
我ながら、急な質問だと思った。でも、なぜか気になって、口をついて出た。
圭佑さんが、少し驚いた顔をした。
「食べていましたよ」
「外食ですか?」
「いえ。料理は自分でしていました。誰かのために作るより、一人で食べる方が楽だったので」
その一言に、ひっそりとした寂しさが滲んでいた。
誰かのために作る──その「誰か」が、あの一年間はいなかった。
「……今は、どうですか」
「最近は、仕事が忙しくて。外食が多くなりました」
「そうですか」
私は、手元のカップを見つめた。一瞬だけ迷って、口を開いた。
「良ければ今度……何か、作ってきましょうか? お弁当とか」
言い終わる前に、心臓がトクンと跳ねた。
厚かましいと思われないだろうか。
けれど、一人で箸を動かしていたという彼の過去を聞いてしまったら、放っておけなかった。