社長、その溺愛は計算外です

「梓さん、話してくれてありがとう」

彼の声が、少し掠れていた。

「強くいようとする君が、僕に弱いところを見せてくれた。それが……どれだけ嬉しいか」

テーブルの下で、圭佑さんの手が私の手に触れた。躊躇いがちに、少し止まって、それからゆっくりと包んだ。

「私たち、お互いに支えていたんですね」

「そうですね」

ゴールドが、ふたりを交互に見上げてから、また目を閉じた。



しばらく沈黙が続いた後、私は口を開いた。

「……圭佑さん」

「はい」

「その一年間、ご飯はちゃんと食べていたんですか」

我ながら、急な質問だと思った。でも、なぜか気になって、口をついて出た。

圭佑さんが、少し驚いた顔をした。

「食べていましたよ」

「外食ですか?」

「いえ。料理は自分でしていました。誰かのために作るより、一人で食べる方が楽だったので」

その一言に、ひっそりとした寂しさが滲んでいた。

誰かのために作る──その「誰か」が、あの一年間はいなかった。

「……今は、どうですか」

「最近は、仕事が忙しくて。外食が多くなりました」

「そうですか」

私は、手元のカップを見つめた。一瞬だけ迷って、口を開いた。

「良ければ今度……何か、作ってきましょうか? お弁当とか」

言い終わる前に、心臓がトクンと跳ねた。

厚かましいと思われないだろうか。

けれど、一人で箸を動かしていたという彼の過去を聞いてしまったら、放っておけなかった。
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