社長、その溺愛は計算外です
婚活で何十人と会ってきて、誰一人ちゃんと見てくれなかった。
それなのにこの人は、会議室での私を見て「十分だ」と言い切った。
あまりにも自然に、あまりにも当然のように。
「……幻滅、されましたよね」
抑えていたはずの不安が、ふいに口をついた。
「仕事であんなに偉そうにしている女が、こんな場所で必死になっているなんて」
「幻滅?」
彼は首を横に振った。
「まさか」
それから、わずかに間を置いて。
「僕は、無駄なことはしない主義なんです」
声のトーンが、静かに沈んだ。
「時間も、人間関係も、全部選別する。合理的でないものは切る」
「……かなり、シビアなんですね」
あまりの徹底ぶりに、つい口が滑った。
「……何?」
「すみません。でも」
言うべきじゃない、と分かっているのに。
心臓が早鐘を打っているのに、視線だけは外せなかった。
「人間関係を『選別』して『切る』とおっしゃいますけど、桐原さんが切ってきたものの中に、もっと大事なものが混じっていた可能性は考えたことありますか?」
沈黙。彼の目が、わずかに細くなった。
「……君は、こういう場でもそういうことを言うんですね」
「ごめんなさい、言わなきゃ良かったですよね」
「いいえ」
一拍の間。
「もっと、聞きたいと思いました」
低く静かな声だった。責めてもなく、苦笑してもいない。本当に──そう思っている、という声。
「合理的な理由はない。……説明もつかない。ただ、これだけは確信している」
彼の指が、私の手首に触れる。